【名文】父は忘れる ー 『人を動かす』デール・カーネギー

 

こんにちは。@Astro8754です。

 

 

 坊や、聞いておくれ。

 

 お前は小さな手に頬をのせ、汗ばんだ額に金髪の巻き毛をくっつけて、安らかに眠っている。お父さんは、一人でこっそりお前の部屋にやってきた。今しがたまで、お父さんは書斎で新聞を読んでいたが、急に、息苦しい悔恨の念に迫られた。罪の意識にさいなまれてお前のそばへやってきたのだ。

 

 お父さんは考えた。これまで私はお前にずいぶんつらく当たっていたのだ。お前が学校へ行く支度をしている最中に、タオルで顔をちょっとなでただけだと言って、叱った。靴を磨かないからと言って、叱りつけた。また、持ち物を床の上に放り投げたと言っては、どなりつけた。

 

 今朝も食事中に小言を言った。食べ物をこぼすとか、丸呑みにするとか、テーブルにひじをつくとか、パンにバターをつけすぎるとか言って、叱りつけた。それから、お前は遊びに出かけるし、お父さんは駅へ行くので、一緒に家を出たが、別れる時、お前は振り返って手を振りながら、「お父さん、行ってらっしゃい!」と言った。すると、お父さんは顔をしかめて、「胸を張りなさい!」と言った。

 

 同じようなことがまた夕方に繰り返された。私が帰ってくると、お前は地面にひざをついて、ビー玉で遊んでいた。ストッキングはひざのところが穴だらけになっていた。お父さんはお前を家へ追い出し、友達の前で恥をかかせた。「靴下は高いのだ。お前が自分で金を儲けて買うんだったら、もっと大切にするはずだ!」 ー これが、お父さんの口から出た言葉だから、我ながら情けない!

 

 それから夜になってお父さんが書斎で新聞を読んでいる時、お前は、悲しげな目つきをして、おずおずと部屋に入ってきたね。うるさそうに私が目を上げると、お前は、入り口のところで、ためらった。「何の用だ」と私がどなると、お前は何も言わずに、さっと私のそばにかけよってきた。両の手を私の首に巻きつけて、私にキスをした。お前の小さな両腕には、神様が植えつけてくださった愛情がこもっていた。どんなにないがしろにされても、決して枯れることのない愛情だ。やがて、お前は、ばたばたと足音を立てて、二階の部屋へ行ってしまった。

 

 ところが、坊や、そのすぐあとで、お父さんは突然何とも言えない不安に襲われ、手にしていた新聞を思わず取り落としたのだ。何という習慣に、お父さんは、取りつかれていたのだろう! 叱ってばかりいる習慣 ー まだほんの子供にすぎないお前に、お父さんは何ということをしてきたのだろう! 決してお前を愛していないわけではない。お父さんは、まだ年端もいかないお前に、無理なことを期待しすぎていたのだ。お前を大人と同列に考えていたのだ。

 

 お前の中には、善良な、立派な、真実なものがいっぱいある。お前の優しい心根は、ちょうど山の向こうから広がってくるあけぼのを見るようだ。お前がこのお父さんに飛びつき、お休みのキスをした時、そのことが、お父さんにははっきりわかった。他のことは問題ではない。お父さんは、お前にわびたくて、こうしてひざまづいているのだ。

 

 お父さんとしては、これが、お前に対するせめてもの償いだ。昼間こういうことを話しても、お前にはわかるまい。だが、明日からは、きっと、よいお父さんになってみせる。お前と仲よしになって、一緒に喜んだり悲しんだりしよう。小言を言いたくなってもこらえよう。そして、お前がまだ子供だということを常に忘れないようにしよう。

 

 お父さんはお前を一人前の人間として見なしていたようだ。こうして、あどけない寝顔を見ていると、やはりお前はまだ赤ちゃんだ。昨日も、お母さんに抱っこされて、肩にもたれかかっていたではないか。お父さんの注文が多すぎたのだ。

 

 人を非難する代わりに、相手を理解するように努めようではないか。どういうわけで、相手がそんなことをしでかすに至ったか、よく考えてみようではないか。そのほうがよほど得策でもあり、また、面白くもある。そうすれば、同情、寛容、好意も、自ずと生まれてくる。

 

 すべてを知れば、すべてを許すことになる。

 

 イギリスの偉大な文学者ドクター・ジョンソンの言によると ー

「神様でさえ、人を裁くには、その人の死後までお待ちになる」

 まして、我々が、それまで待てないはずはない。

ー『父は忘れる』

 

引用:『人を動かす』 (著) D・カーネギー

 



 

やまぴー
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